はじめに / 第4章
樹種
東京の森でよく出会う木を、どこに生えているかと見分け方に分けて紹介します。高尾山国有林の人工林は、スギが47%、ヒノキが46%です。天然林にはイヌブナ、コナラ、モミ、ツガなどが見られます。[1] 伊豆諸島ではスダジイとタブノキが森の中心です。[2]
見分け方は一般的な図鑑にある特徴です。現場での見分け方と写真を順次加えます。
木を知る
どの木が、何に使われてきたか
| 樹種 | 材の特徴 | 主な用途 | 東京での例 |
|---|---|---|---|
| スギ | 手に入りやすい建築材。幹がまっすぐで縦に薄く割れる[3] | 柱、板、天井板、家具、樽、下駄、割箸[4] | 江戸の樽・桶[3]、国立競技場の軒庇・大屋根[5] |
| ヒノキ | 建築材の最高品とされ、千年以上もつ[4] | 寺社建築、建具、桶、漆器の木地[4] | — |
| カラマツ | 小・中径の丸太から、背の高い梁をつくる材料に使われる[6] | 梁、集成材[6] | 国立競技場の大屋根トラス[5] |
| アカマツ | 梁・桁に使われる針葉樹[6] | 梁、桁[6] | — |
| ケヤキ | 代表的な広葉樹材。並木にも多い[4] | 建築の装飾部分、家具、臼、杵、彫刻[4] | — |
「東京での例」の空欄は調査中です。カラマツは東京の森の主な樹種ではありませんが、都内の大型木造建築で使われているため載せています。
重さ・硬さ・腐りにくさ
木は樹種によって、重さも硬さも、腐りにくさも大きく違います。重い木ほど硬く強い傾向があり、気乾比重(乾いた木の重さを水と比べた値)は強さの目安になります。[7] 腐りにくさについては、製材の日本農林規格(JAS)が、心材の耐久性の高い樹種を「D1」として定めています。[8]
| 樹種 | 気乾比重の目安[9] | 重さ・硬さ | 腐りにくさ(JAS) |
|---|---|---|---|
| キリ | 0.30 | とても軽く柔らかい | — |
| スギ | 0.38 | 軽く柔らかい | D1(耐久性が高い)[8] |
| ヒノキ | 0.44 | 中くらい | D1[8] |
| モミ | 0.44 | 中くらい | D2[8] |
| カラマツ | 0.50 | やや重く硬い | D1[8] |
| ツガ | 0.50 | やや重く硬い | D2[8] |
| アカマツ | 0.52 | やや重く硬い | D2[8] |
| クリ | 0.60 | 重く硬い | D1(広葉樹)[8] |
| ブナ | 0.65 | 重く硬い | D2[8] |
| ケヤキ | 0.69 | 重く硬い | D1(広葉樹)[8] |
JASの区分は、D1に挙げられた樹種以外をすべてD2とする決まりです。広葉樹のD1は、ケヤキ・クリ・クヌギ・ミズナラなどです。[8] 気乾比重の数値は、森林総合研究所が監修した『木材工業ハンドブック』改訂4版の樹種別の気乾密度(平均値)です。[9] 同じ樹種でも、育った場所や年輪の幅で大きく変わります。キリはJASの区分表に載っていないため「—」としています。
檜原村の小林家住宅(第5章)では、柱にクリ、梁にスギが使われていました。表で見ると、どちらもD1の腐りにくい樹種です。
植えられてきた木
スギ ヒノキ科
多摩の人工林の主役
葉は鎌のように曲がった短い針形で、枝のまわりにらせん状につく。樹皮は赤褐色で、縦に細長く裂けてはがれる。
ヒノキ ヒノキ科
多摩の人工林でスギと並ぶ
葉はうろこ状で枝に密着する。葉の裏の白い気孔線がY字に見える。よく似たサワラはX字に近い形で、葉先がとがる。樹皮は赤褐色で、薄く縦にはがれる。
多摩の天然林の木
ツガ マツ科
尾根筋の天然林
葉はモミより短く、長いものと短いものが混じってつく。葉先はわずかにくぼむ。
イヌブナ ブナ科
山地の落葉広葉樹林
樹皮は黒っぽく、いぼ状の皮目が目立つ。ブナより葉の側脈の数が多い。
コナラ ブナ科
丘陵の雑木林
葉は先の方が幅広い倒卵形で、ふちにぎざぎざがある。葉柄は短い。かつては薪や炭をとる林の代表だった。
島の木
都内の巨樹と並木
環境省は、地上130cmの高さで幹周りが300cm以上の木を「巨樹」と定めています。[10] 東京にも、この基準を大きく超える木があります。
| 木 | 場所 | 幹周 | 樹齢など |
|---|---|---|---|
| 御岳の神代ケヤキ | 青梅市 武蔵御嶽神社の参道 | 8.2 m | 約600年(都教委)、1,000年ともいわれる。樹高30m。昭和3年に国の天然記念物[11] |
| クスノキ(タコ足) | 明治神宮 | 7.03 m | 樹齢約100年[12] |
| ムクノキ | 明治神宮 | 5.75 m | 樹齢300年以上[12] |
| コナラ | 明治神宮 | 4.74 m | —[12] |
明治神宮のクスノキは、植えられてから約100年で幹周7mを超えました。人がつくった森でも、100年あれば巨樹が育つことがわかります。[12]
上野の東京国立博物館の本館前には、大きなユリノキが立っています。北アメリカ原産の木で、明治の初めに渡ってきた30粒の種から育った苗木の1本が、明治14年(1881)に博物館に植えられ、今も残っているとされます。[13] 晩秋には、名前の由来となったチューリップ形の花ではなく、黄葉した大きな葉で目を引きます。

武蔵陵墓地の北山杉
八王子市の武蔵陵墓地には、大正天皇の多摩陵(1927年造営)や昭和天皇の武蔵野陵などがあります。陵墓地の正門から続く約400mの参道の両側には、京都から取り寄せた約150本の北山杉が植えられているとされます。植えた当時は人の背丈の2倍ほどでしたが、いまでは20mを超す大木になったという記述があります。[14]
北山杉の本数と由来は、百科事典系サイトの記述によるもので、宮内庁などの公式資料ではまだ確認できていません。植えた年も未確認です。
都の木
イチョウをもう少し詳しく
都の木のイチョウは、東京でいちばん目にする木の一つです。都が管理する街路樹のうち、イチョウは58,858本で、樹種別で第2位です(令和5年4月1日現在)。[16] 国会議事堂の前庭には、議事堂が建つ前からある大イチョウがいまも立っています。[17]
火に強い木
木は熱を受けると葉の水分を蒸気として出し、葉の温度が上がるのを抑えます。重なった葉は樹冠の内側に熱が入るのを防ぎ、焼けずに形が残れば、後ろへの熱をさえぎる「壁」にもなります。[18] 大阪府の資料は、可燃性ガスが出にくい、火がつくまでの時間が長い、含水率が高いといった性質から、イチョウを火の熱を受けやすい場所に向く樹種に挙げています。[18]
関東大震災の後、横浜の日本大通りでは昭和2年(1927)から3年かけてイチョウが植えられました。[19] 「震災でイチョウが延焼を食い止めた」という話もよく語られますが、今回の調査では、具体的な場所を示す公的な資料は見つけられませんでした。
ギンナン:食べる前に知っておくこと
イチョウの実(ギンナン)は秋の味覚ですが、食べすぎると中毒を起こします。原因はギンナンに含まれる4'-O-メチルピリドキシンという物質で、ビタミンB6の働きを妨げ、中枢神経を異常に興奮させます。加熱しても消えません。症状は嘔吐やけいれん、めまいなどです。[20]
5歳以下の子どもが6〜7個食べてけいれんを起こした例があり、日本中毒情報センターは小さな子どもには食べさせないよう呼びかけています。大人の安全な量は示されていません。相談は10〜12月に集中しています。症状が出たら、けいれんがくり返すおそれがあるため必ず医療機関を受診してください。[20]
ギンナンには昔から咳止めなどの効き目があると言い伝えられていますが、このサイトでは効能を裏づける資料を確認できていないため、効き目については書いていません。
適地適木:その土地に合う木を植える
木には育ちやすい場所と育ちにくい場所があります。合った場所に植えた木はよく育ち、合わない場所に植えた木は育ちが悪く、病害虫の被害も受けやすくなります。植える場所に合った樹種を選ぶことを「適地適木」といいます。[21]
| 土の湿り具合 | 向いている木の例 |
|---|---|
| ほどよく湿った褐色森林土 | スギ |
| やや湿った褐色森林土 | スギ(ヒノキもやや向く) |
| 乾いた〜やや乾いた褐色森林土 | アカマツ |
島根県『新たな再造林の手引き』(令和2年改訂)の樹種選択の例[21]。実際には、木の育ち具合(地位)と土壌の型の二段階で判断します。
国も、育ちがよく道や集落に近い「林業に向いた土地」を選んで集中的に手入れする方向に進めています。令和6年度末で、市町村の計画で「特に効率的な施業が可能な森林の区域」に設定された面積は109万ヘクタールです。一方、条件の厳しい人工林では、帯状や群状に伐って広葉樹を交えた森に変える取り組みも進められています。[22] 戦後に大量に植えられ、急な地形での作業が課題になっている多摩の人工林(第2章)の今後を考えるうえでも、基本になる考え方です。
木の病気と害虫、そして花粉
松くい虫:マツ材線虫病
「松くい虫」と呼ばれる被害の正体は、体長1mmに満たない線虫、マツノザイセンチュウです。この線虫をマツノマダラカミキリが木から木へ運び、線虫が入ったマツは水を吸い上げられなくなって枯れます。[23] 全国の被害量は昭和54年度(1979)がピークで、令和4年度(2022)にはその約10分の1の24.9万立方メートルまで減りました。[24] ところが令和5年度から再び増え、令和7年度は約63万立方メートルと、前年度の163%に急増しています。[23]
対策は、カミキリが出てくる時期の薬剤散布、健康なマツへの薬剤の樹幹注入、そして枯れた木を伐ってくん蒸・チップ化・焼却し、中の幼虫を絶やすことです。[23] 線虫に強い抵抗性マツも590品種が開発され、令和4年度にはマツの苗木の8割を占めました。[24] 海岸のマツ林は、風や潮、津波から暮らしを守る林です。[23]
ナラ枯れ:都立公園のコナラが枯れた
ナラ枯れは、体長5mmほどのカシノナガキクイムシが運ぶナラ菌による病気です。虫は集合フェロモンで仲間を呼び寄せ、一斉に幹に穴を開けて卵を産みます。持ち込まれた菌が広がると水の通り道が詰まり、7月下旬から8月中旬に葉が変色して枯れます。[25] 令和4年度には41都道府県で被害が確認され、[24] 令和7年度の全国の被害量は約21.2万立方メートルでした。[25]
東京では、令和元年(2019)8月に砧公園など複数の都立公園でコナラが大量に枯れ、ナラ枯れと分かりました。砧公園と光が丘公園では5年間で少なくとも269本のブナ科の木がナラ枯れで伐られ、その約74%がコナラでした。伐った木に占める太い木(大径木)の割合は、砧公園で88.3%、光が丘公園で76.5%です。[26] 伐られた木の多くが、太く育った木でした。



写真のナラ枯れは、いずれも撮影した筆者が現地で見て判断したものです。樹種名は記録していません。
そのほかの脅威:サクラの外来カミキリとシカ
クビアカツヤカミキリは、サクラ・ウメ・モモなどバラ科の木に入り込み、幼虫が幹の中を食べて木を枯らす外来のカミキリムシです。幹の穴から木くずとふんが混じった「フラス」が大量に出るのが目印です。練馬区では令和8年(2026)7月から、光が丘公園などで成虫が確認されています。[27] 都内の街路樹にはサクラ類が約4万3千本あり(第8章)、広がれば影響は大きくなります。
多摩の山ではニホンジカが増えています。保護によって数が戻った一方で、植えた木や下草が食べられるようになり、平成16年(2004)には奥多摩町で表土のほとんどが流れ出す激しい被害が記録されました。都の管理捕獲は令和2年度に487頭と、過去最多です。[28]
花粉症と木:スギ・ヒノキだけではない
花粉症の原因として報告されている植物は約50種あります。最も多いのはスギで、ヒノキの花粉もスギと共通の性質をもつため、スギ花粉症の原因になります。樹木ではほかに、シラカンバ、ハンノキ、オオバヤシャブシ、ケヤキ、コナラ、クヌギなどがあります。[29] ケヤキは都内の街路樹に約2万9千本あり(第8章)、コナラとクヌギは雑木林の木です。都市の緑も、花粉の出どころになります。
ニセアカシア(ハリエンジュ)は北アメリカ原産の木で、日本には明治8年(1875)に導入された記録があります。砂防や荒れ地の緑化、街路樹に使われ、足尾銅山の煙害の跡地で森を取り戻すのにも使われました。養蜂では最も重要な蜜源とされます。[30] 一方で、急速に育って密な林をつくり、在来の植生を押しのけることがあるとして、環境省の外来種のリストに載っています。[30][31] 花粉症については、環境省のマニュアルが挙げる主な原因樹木には入っていません。[29] ハチが蜜を集めにくる花で、花粉を風で大量に飛ばすスギとは仕組みが違います。[31] 初夏の症状は、春から初秋に花粉を飛ばすイネ科の草が原因のこともあります。[29]
ニセアカシアの花粉で症状が出たという報告がまったくないかどうかは、このサイトでは確認できていません。
花粉の少ないスギ、花粉の出ないスギ
東京都は、スギを伐って花粉の少ない品種に植え替える事業を進めています(第2章)。植える品種には二つの種類があります。[32]
| 種類 | 品種 | 特徴 |
|---|---|---|
| 少花粉スギ | 西多摩2号・西多摩3号(東京都)、中4号(神奈川県) | 花をつける量が少ない。多摩の環境に合う品種がすでに開発され、普及が進んでいる[32] |
| 無花粉スギ(雄性不稔) | 心晴れ不稔1号〜4号(東京都が開発) | 花粉をまったく作らない。2013年に日の出町の試験林に植え、2021〜2023年にも新しい個体を植えて検証している[32] |
「ハイブリッド」と呼ばれるスギもあります。たとえば鳥取県は、無花粉の遺伝子をもつスギと、成長がよく雪や害虫に強いスギを人工的に掛け合わせ、花粉を出さずに林業にも向く品種づくりを進めています。[33] 花粉をなくすことと、よく育って売れる木であることを両立させなければ、植え替えは進みません。
このサイトで確認できた「ハイブリッド」の例は、鳥取県の交配による無花粉スギです。東京都の資料では「少花粉スギ」「無花粉スギ」と呼ばれています。
出典
- 林野庁関東森林管理局「多摩森林計画区の概要」 PDF
- 環境省 富士箱根伊豆国立公園 指定書等資料 PDF
- 東京都 木育関連リーフレット(令和5年度) PDF
- 林野庁掲載 活木活木森ネットワーク「木づかい普及啓発テキスト」 PDF
- 日本スポーツ振興センター「国立競技場について」 PDF
- 長野県林業総合センター 研究トピックス(接着重ね梁) PDF
- 林業試験場研究報告 第319号(1982年、国産主要35樹種の強度試験) PDF
- 農林水産省「製材の日本農林規格」改正告示(耐久性区分D1の樹種) PDF
- 北海道「樹種別の気乾密度の値の例」(森林総合研究所監修『木材工業ハンドブック』改訂4版による) PDF
- 環境省「巨樹・巨木林データベース」リニューアル(2018年3月1日) リンク
- ニッポン旅マガジン「御岳の神代ケヤキ」 リンク/観光庁 多言語解説文 リンク
- 環境省 巨樹・巨木林データベース 観察コースガイド「明治神宮」 PDF
- 中部大学 太田明徳「ユリノキ(ハンテンボク、蓮華木、チューリップツリー)」 PDF
- 「武蔵陵墓地」(百科事典系サイト) リンク
- 東京都「東京都の紋章・花・木・鳥」 リンク
- 東京都建設局「東京の街路樹 総括表」(令和5年4月1日現在) PDF
- 参議院「国会議事堂を見る」 リンク
- 大阪府「樹木の防火機能」 リンク
- 横浜市「街路樹の歴史」 リンク
- 日本中毒情報センター「ギンナンの食べ過ぎに注意しましょう」(2022年9月30日更新) PDF
- 島根県『新たな再造林の手引き』(令和2年4月改訂) PDF
- 林野庁『令和7年度 森林・林業白書』特集 リンク
- 林野庁「松くい虫被害」 リンク
- 林野庁『令和5年度 森林・林業白書』第1章(森林の病虫獣害) リンク
- 林野庁「ナラ枯れ被害」 リンク
- 東京都公園協会「ナラ枯れによって都立公園の樹林はどのように変化したのか ~砧公園・光が丘公園~」 PDF
- 練馬区「クビアカツヤカミキリ」 リンク
- 東京都環境局 ニホンジカ管理に関する資料 PDF
- 環境省『花粉症環境保健マニュアル』第2章 PDF
- 環境省 生態系被害防止外来種リスト 参考資料(ハリエンジュ) PDF
- 北海道立総合研究機構 林業試験場「ニセアカシアの分布、生態、管理に関する解説書」 PDF
- 東京都農林水産振興財団 スギ花粉症対策品種に関する資料 PDF
- 鳥取県林業試験場 業務報告(ハイブリッド無花粉スギの開発) PDF